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日曜日の餃子

出かけた先での昼時、なにを食べようかと迷っていた。ローカル電車の踏切沿いをしばらく歩いてみると、年季の入った赤い暖簾が目についた。店の前には「準備中」の立て札。扉には、11:30開店とある。開店まであと5分。せっかくなので、そのまま入り口で待つことにした。



3人、4人とやってくる。誰もが気やすい格好で、近所の人だと思わせる。夏のような陽気のせいか、男性の一人は素足にサンダルを引っかけている。開店時間を1分過ぎたところでガラスの引き戸がガラリ、恰幅のよい店員が顔を出した。



カウンターの一番奥に座り、壁のメニューを眺める。ラーメン並と餃子を注文。ラーメン屋に入ると、かならず餃子を頼んでしまう。低めのカウンター越しに、厨房の様子がありありと見える、オープンキッチンのような造り。調理する姿を見られて、緊張しないものだろうかと勝手に心配するも、厨房のなかを覗き込んでいるのは、どうやらわたしだけのよう。ほかの客は、テレビを見たり、新聞に目を通したり。



おしぼりで手を拭きながら、店内を見回す。カウンターの後ろには畳の小上がりがあり、4人で使えるテーブルが4つ並んでいる。思ったよりも広い。さらに奥には、4人がけと、2人がけのテーブル。テレビからは、子ども向けの歌番組が流れていた。



奥のテーブルに座った男性が店員に、「野球中継が見たいんだけど」。年配の女性は「どうぞ、どうぞ」と、チャンネルを変える。テレビの下には、瓶ビールが冷えている冷蔵ケース。車でなければ一杯飲みたいところなのだけど、と悔しがる。



5個並んだ小ぶりの餃子は、焼き色がほんのり。皮は手づくりなのだろう、弾力がある。ニンニクは入っているのか、いないのか。わからないくらいがちょうどよい。カウンター据えつけの餃子のタレを小皿に取り、たっぷりと餃子を浸してほおばった。



ラーメン屋に入る、ほんとうの目的は餃子といってもよい。この香ばしい焼き加減は、業務用の鉄板と、強いガス火があってこそだと思っている。だから、家では水餃子のほうが出番が多い。



2つめを食べ終えたころに、ラーメンが運ばれてきた。豚骨の白濁したスープには、脂がこってり、浮かんでいる。一瞬、レンゲですくったスープをすするのを躊躇したものの、まずスープを飲まないことには始まらない。



ふと後ろを見やると、休日昼間の店は満席。壁には、地元タレントの色紙に混じり、全国放送でも名を馳せる芸人の色紙もいくつか、混じっている。「へぇ、こんな辺鄙な場所に」と思いながら、麺をすする。もしかしたら、有名な店だったのかもしれない。



一番に店に入り、一番に店を出る。まだ昼前。日曜日の時間はたっぷりと残っている。(R)

 
 

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